藤 紋
藤は繁殖力が強く初夏に咲く紫色の花は美しい、
藤にちなんで藤原氏の代表的な家紋ともされている。
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初夏の山野を彩る紫色の花「藤」は、長寿で、繁殖力の強いことからめでたい植物とされ、万葉集にも詠まれるなど、古代から親しまれていた。また、平安時代に権勢を誇った藤原氏は、その氏にちなんで藤花の宴をさかんに催したことが伝わっている。一方、衣服の文様にも好んで用いられ、「藤巴」「藤の丸」などが意匠として考案され、織り出されている。
これらのことから、やがて家紋として用いられるようになった。藤紋の場合、花房の下がった形の「藤の丸」が本来の形であったが、本家・分家の区別を立てるため「上り藤」が作られた。また、下り藤を家の勢力が下るのを忌んで上り藤が生まれたのだ、とする説もある。
藤は藤原氏の代表的な家紋と誤解されているが、藤原氏を代表する家紋とはなっていない。公家の藤原氏をみると九条・二条家などを除けば、ほとんど藤を用いていず、地方に下って武士化した藤原氏支流が氏にちなんで藤紋を用いたところから、藤紋を藤原氏の代表紋とする説が出たものと思われる。藤原氏から出た武家としては藤原秀郷を祖とする、佐藤・武藤・近藤・尾藤・首藤・後藤の諸氏、藤原利仁を祖とする斎藤・加藤・進藤などの諸氏は、名字に藤の字を用い、藤を家紋としている。
『見聞諸家紋』には讃岐の大野氏、摂津の伊丹氏、河内の山佐氏、近江の箕浦氏、美濃の伊賀氏らが藤紋を用いたことを記し、武家として藤紋を用いた古いものとなっている。藤紋は室町時代の武家の間に流行した紋の一つであったようだ。
江戸時代には、大名・旗本を通じて百七十家が用いているが、源・平・藤・橘の日本四大姓のうち、藤原氏の後裔を称する家が多かった結果であろう。また、京都にある西本願寺、東本願寺の紋も藤紋だが、これは宗祖親鸞が藤原氏流日野氏から出たことにちなむものである。
九条氏の「下り藤] |
伊丹氏の「上り藤」 |
意匠の美しい「八つ藤」
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藤紋を用いる家で異色なのが、紀伊の鈴木氏である。鈴木氏は熊野神官の一族で、古代からの氏族である。この鈴木氏は熊野信仰によって全国に広まり、現在では日本第一の名字となっている。鈴木氏の本貫には藤白神社があり、これにちなんで藤を家紋にしたものという。いま、藤の付く名字ではなく藤紋を用いている家は、紀伊鈴木氏との関係が考えられそうだ。
藤紋は花も美しいが、家紋としてのデザインも美しいため、公家から武家、さらには庶民へと広まり、多くの人に愛される家紋となった。それだけにバリエーションも多く、約百五十種もの藤紋がある。
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写真:和歌山県橋本市子安地蔵境内にて撮影
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